丕緒の鳥/小野不由美

説明不要の大人気シリーズ、十二国記の短編集。
「丕緒の鳥」「落陽の獄」「青条の蘭」「風信」の4編。

このうち最初の二つはyomyomに掲載されたもので、あとの二つが書き下しの完全新作。

「丕緒の鳥」はyomyomを買って読んだけれど、「落陽の獄」は、またyomyomに十二国記の新作が掲載されたらしいと知った時にはとっくに完売していて、読むにはAmazonで定価の何倍ものお金を払わなければならず、泣く泣く諦めた。ので、私にとっては三編が待ちに待った新作。

(以下、ネタバレ)



感想


読後の栞は、最も興奮したシーンに。

丕緒の鳥

物語自体も感動的なんだけれど、yomyom掲載当時は「十二国記がホントに帰ってキターー! 陽子ぉおおおお!」…っていう、そっちの感動もかなりw

内容は、デザイナー(兼イベントプロデューサー?)である主人公が、恩師や腕を認め合う貴重な仲間を失い、上司にも恵まれなくなり、ついにはアイデアも意欲も涸らして引退を心に決めた最後の仕事で…って話です。…なんて書くと身も蓋もない?w

休筆のブランクを感じさせない、短編ながら十二国記ワールドにどっぷり浸かれる感動作。

落陽の獄

死刑制度の是非を問うお話。

…他の方も書いてらっしゃるけど、十二国記である必然性は薄いと私も思います。まぁ、十二国記の、恐らく若いであろうファン層にも考えて欲しいということかもしれませんが。

貴方は社会に著しく害をなす存在だから殺傷処分ね、というのが死刑。そこに浮かぶ様々な疑問。
この罪人が更生する可能性は本当にないのか?
僅かにあるとしても、更生を待つ間、国民の血税で養う価値があるのか?
殺した方が効率が良いのでは?
罪人にも人権があるのだし、命のやり取りを効率で語ってはいけないのでは?
被害者遺族も国民(世論)も極刑を望んでいるが?
それを理由に死刑にすれば、私刑になってしまうのでは?
死刑は取り返しがつかないから冤罪の保険の意味もこめて無期懲役にすればいいのでは?
冤罪があるかもしれない前提で判じてどうする。
実際に罪人に死を与える仕事=殺人をする人のことも考えて…

…などなど。

既にいろんなところで語り尽くされていることなので、新鮮味はありませんが、個人的には好物なネタ。これに刑法39条是非論が加わるとさらに重い話になるのですが、それこそ十二国記でやることじゃないですナ。

十二国記は専制政治の世界ですが、王を不在か無能にすることで、「自分たちで考えて議論して決を下さねばならない」という、いま我々がいる現実世界と同じ苦悩を描くことができる…
…ん?
もしかしたら。
天が無い=西王母がいない世界?へ向けて収束しようという、その微かな前振り?
というのは考え過ぎかw

青条の蘭

本当に足腰立たなくなるまで、ボッロボロになるまで足掻いて、のたれ死ぬ寸前まで頑張って漸く救われる、十二国記のお決まりパターンのやつですわw

「いつだって決意するのは造作もないが、決意一つで動くほど現実は容易くはない。」
「その時」になって後悔したくないから、一刻も無駄にせず前へ進む…
うんうん(´;ω;`)

しかもね、いつの時代のどこの国の話なのか、王都に近づく終盤になって分かる仕掛けになっていて…ああ〜ファン心理分かってるな〜上手いなぁあとw

あと他の方の感想を読むまで気付かなかったのですが。
最後の箱リレーで出てくる「新王によって任じられた新しい地官遂人」=帷湍…!
…ああああああ!!!( ゚□ ゚)

「遂人はたかだか中大夫の官ですが、山野を治める主要の官です。治水のために下賜された公金が官の懐に入って消えたらどうします。(略)地官の中でも、もっとも民に福利ある地位に帷湍を据えたのですよ」 
(東の海神 西の滄海 p200-)

…驪媚ーーーっ( TДT)

風信

意外にもまたまた慶国の、陽子が来る直前の頃の話。

…なのですが、そんなことより、震災を意識して書かれたのかなぁ?と、そこが気になりました。

3.11の震災の後、真偽の分からない情報が錯綜したり…
少しずつ落ち着いてきたところに「まだまだ辛い思いをしてる人がいるのに娯楽とか自重しろ」みたいなことを言う人がいて…そう言いたくなる心情は分からなくもないけど、被災してない我々はいま出来る目の前の仕事をやるしかなくて…でもそれ(普通に仕事して収入を得られること)が後ろめたく思えたりもして…
普通の日々の営みが幸せの象徴に思えて、バカみたいに泣けてしまったり…

そんな現実との接点が見えすぎて、十二国記ワールドにあまりトリップできなかった。そういう点では落陽の獄と似てるかな。

連花「…頑張れ」
(´;ω;`)ブワッ

震災直後、被災者に向けて「頑張れ」じゃなく「頑張ろう」と言おうぜ、なんていう言葉狩りみたいなものもありましたよね…

想いは同じはずなのに、その人の表面だけを見て軽率に他者を叩いてしまう…それだけみんな不安と苛立ちを抱えてる。そんな社会。

…現実とリンクし過ぎていて、読後に重い溜息が(^^ゞ

来年刊行予定?の本編では、スカっと、気持ちの良い涙を流したい。

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